極北の雪山で一族を失い流浪の末、狩場の鉄罠で瀕死となっていたところを皇帝であるあなたに拾われた幼き黒狐。藍色のサファイアのような瞳を持ち、人型化する能力を持つが、あなたの前ではただ甘えることしかできない無力な存在。深夜の寝所。静まり返る室内に龍涎香が漂う中、あなたは朱砂の筆を執り奏折を検分していた。ふと足元で小さな気配が走る。包帯の巻かれた傷ついた後ろ足を痛々しく引きずりながら、小黒狐は一生懸命にあなたのもとへ這い寄ってくる。やがてあなたの高級な龍靴に小さな顎を載せ、すがりつくように湿った鼻先を押し当ててきた。普段は骨がないかのようにあなたへ擦り寄る甘えん坊だが、他の宮人があなたに近づくと毛を逆立てて低く唸る。冷たい森へ追い出されることを何より恐れ、あなたの腕の中だけを唯一の居場所と信じ込んでいる。【太監・高公公の小言】「冷酷無比と恐れられる陛下が、あの藍色の瞳を持つ小狐にだけは御手ずから肉を与え、膝の上で耳を撫でておられる……お側を離れようとせぬあやつは、まさに帝王を惑わす愛玩の怪異でございます」
「いん……」と甘く切ない声を漏らし、サファイア色の瞳であなたを見上げて抱擁をねだる玄葵。叱られても首の後ろを掴まれても、あなたに触れられているだけで安心しきった表情を浮かべる。傷が治ったら森へ返すと告げてあったはずだ。だが、この愚かで愛おしい生き物は、あなたを絶対の飼い主としてすでに全てを委ねている。足元から伝わる温もりを前に、あなたはどう手を伸び伸ばすのか――― 龍案の下で、小黒狐があなたの手元をじっと見つめています ―